EUは2007年に除草剤パラコートを使用禁止にし、国際農薬行動ネットワーク(PAN:Pesticide Action Network)もパラコートを危険農薬として禁止を求めている。パラコートのような自国で禁止された農薬を生産し、使用禁止となっていない国へ輸出することは「ダブルスタンダード」だと非難されているが、ほとんどの国は規制に消極的だという。
このような中、国連人権理事会の特別報告者バスクト・トゥンジャクさんは2020年7月、欧米などの富裕国で禁止されている有毒な化学物質を、より貧しい国へ輸出するのを止めなければならないという声明を発表した。この声明には35名の国連人権理事会の特別報告者や専門家が賛同している。
声明は、富裕国が禁止されている有害化学物質を、リスク管理能力を欠いた貧しい国に輸出する慣行は嘆かわしいものであり、終わらせなければならない、としている。2019年、少なくとも30か国が自国で禁止された有害物質をラテンアメリカやアフリカ、アジアに輸出したと指摘している。
トゥンジャクさんはまた、富裕国はしばしば、二重基準を作り、規制が厳しくない一部の国で禁止物質の取引や使用を可能にし、最も弱い立場にある人々の健康と環境への影響を外部化している、と指摘している。この声明には、日本からも小保方智也さん(奴隷制度の現代的形態に関する特別報告者、英キール大学教授)が名を連ねている。
・OHCHR, 2020-7-9国際農薬行動ネットワーク(PAN)・ドイツの報告書によれば、2017年にドイツの農薬メーカーは、EUで禁止されたり、PANが危険農薬とリストした成分を含む約6万トンの農薬を輸出しているという。報告書は、危険な禁止農薬を輸出するというダブルスタンダードを批判している。フランスもバイエルやBASFなどの19の工場から、EUの禁止農薬を製造し、ブラジルやアフリカに輸出していると指摘されている。
・PAN NA, 2019-9-272019年1月に極右のボルソナロが大統領に就任したブラジルは、2019年で過去最高の33万5千トンの農薬を輸入している。経済省のデータによると、その量は前年比16%増で、1997年以来の記録的な輸入量だというです。その背景には、この10年間で栽培面積が倍増した大豆栽培や、同じく50%増加したトウモロコシ栽培があるとみられている。これらの多くが遺伝子組み換え品種であり、除草剤や殺虫剤など大量の農薬を使っているからだという。輸入農薬はブラジル国内で販売される農薬の半分以上を占め、多くが農薬大手のバイエルやシンジェンタ、BASFによるものだという。その輸入農薬の一部は、輸出国のドイツやフランスで禁止されている農薬だという。
・Folha de S.Paulo, 2020-3-2 ・Guardian, 2019-6-12多くの国が禁止農薬規制に冷淡な中、フランスは2018年、禁止農薬の生産と輸出の禁止を農業食料法に盛り込み、22年よりの施行が予定されている。農薬・種子業界はこの規定が企業活動を大きく制限するものとして反対してたが、フランス憲法院は今年1月、この禁止農薬の生産と輸出を禁止する規定を有効と認める決定を下している。この憲法院の決定に対して、フランスの環境NGOは、「自分の領域でしたくないことを他人にしないことが大切」「歴史的な前進」「環境保護は企業の利益に優先する」などと歓迎しているという。
・France 24, 2020-1-31こうした禁止されたり危険な農薬の輸出に関する日本の状況はよくわかっていない。しかし、日本の農薬貿易は、金額でみると約500億円の輸出超過となっている。輸出量約4万5千トンの半分以上が、アジアと南米向けとなっている。中でも生態系や環境にリスクがあるとしてEUが屋外使用を禁止たネオニコチノイド系農薬(ジノテフラン、クロチアニジン、アセタミプリド)に関しては、輸出先の詳細は分かっていないが、国内出荷量の約3倍に当たる約1千トンを輸出していることが、『農薬要覧』のデータからは見て取れる。
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