ブラジル国家衛生監督庁(ANVISA)は9月15日、9月22日に発効が迫っている除草剤パラコート禁止を維持したという。ブラジルでは、2017年にパラコートの禁止決定後、農薬ロビーや生産者による激しいキャンペーンが展開されたが、ブラジル国家衛生監督庁理事会は3対2の僅差で延期を認めず、当初の決定を維持した。これにより、パラコートは一週間後の9月22日から禁止されることになったという。農薬企業の甘言で、多くの農民がパラコートを購入しているという。
ブラジル国家衛生監督庁は2008年、パラコートを含む14種類の危険な農薬の再評価を開始し、健康への懸念から、2017年10月にパラコートの禁止を決定していた。採決では、予定通りの禁止に賛成した3名の理事のうち2名は、現在のボルソナロ大統領が指名した理事だという。ブラジル国家衛生監督庁長官は、農薬ロビーの求める禁止の1年延期に賛成したが破れたという。
パラコートの使用延長を図った農薬ロビーは、ブラジル大豆生産者協会(Aprosoja)が費用を負担し、大豆労働者の尿を調べた調査で安全性を強調しようとしたが、利益相反が暴露され、調査は中止されたという。
パラコートに使用に反対してきた「農薬と生命のための恒久的キャンペーン」 は、さまざまな研究者や機関を動員して、農薬の禁止を維持するようブラジル国家衛生監督庁に要請していた。8月には、業界団体からの圧力に対抗して、団体、議員、大学から200人以上の署名が集まった。
ブラジルは英国からパラコートを輸入しており、グリーンピース・英国とパブリック・アイがこの9月10日に発表した調査報告によれば、2018年に9千トンが、2019年には8千8百トンのパラコートが、シンジェンタにより英国からブラジルへ輸出されたという。この報告書により、EUが2007年に禁止したパラコートを初めとする禁止農薬が、EU諸国から輸出されている実態が明らかになっている。
ブラジルでは、パラコートは主に綿花やトウモロコシ、大豆の播種前後の雑草防除のための除草剤として、また収穫時に乾燥をそろえる貯めに収穫前に使用されているという。地元紙(電子版)によれば、農薬企業は、パラコート禁止が1年延期となると宣伝し、多くの農家がパラコートを購入しているという。また、ブラジル環境再生可能天然資源研究所 (IBAMA) のまとめによれば、ブラジルにおける2018年のパラコート販売量は1万3千トンを超え、農薬売り上げの6位だという。シンジェンタが英国から輸出した9千トンは、ブラジルでの販売量の約7割を占めている。
・AgNews, 2020-9-16 ・Protras do alimento, 2020-9-15 ・Unerathed, 2020-9-10 ・Public Eye, 2017-10-23ブラジルが禁止するパラコートは、その毒性が強く、国際農薬行動ネットワーク(PAN)は禁止すべき農薬の一つに挙げている。先ごろ国連人権理事会の特別報告者バスクト・トゥンジャクさんは、欧米などの富裕国で禁止されている有毒な化学物質を、リスク管理の緩い国への輸出をストップさせるよう求める声明を発表した。ブラジルにおけるパラコートをめぐる農薬ロビーの動きは、声明が指摘したダブルスタンダードの一例であり、非難される行動だ。
・PAN, 2019-3 ・OHCHR, 2020-7-9日本はパラコート輸入国
日本は、パラコートを毒物に指定しているが、いまだに使用を禁止していない。日本でのパラコート製剤の登録は2種類で、いずれもジクワット・パラコート液剤で、パラコートの含有率は5%である。ジクワット・パラコート液剤は2018年に約1480トンが出荷されている。これは、パラコートの原体換算で約74トンとなる。国立環境研究所のまとめによれば、出荷量は、ここ10年は減少傾向である。
グリーンピース・英国などのまとめでは、2018年にシンジェンタは、英国から日本に向けて250トンのパラコートを輸出している。日本側の統計(『農薬要覧 2019』)でも、日本はパラコートの原体を英国での調査とほぼ同じ227.5トンを輸入している。2018年に輸入されたパラコートは、全量がシンジェンタによるもので、英国から輸出されたものと思われる。
一方、『農薬要覧 2019』によれば、パラコートは、原体、製剤のいずれも日本から輸出されてはいない。輸入だけであるとすると、パラコートの出荷量とは原体換算で約150トンの差がある。この150トンの用途ははっきりしない。
英国輸出量*1 | 輸入量*2 | 国内出荷量*3 | 差異 |
---|---|---|---|
250.0 | 227.5 | 74.225 | 153.275 |
- *1 Greenpeace UK
- *2 『農薬要覧2019』
- *3 国立環境研究所・パラコート
日本では21年度からの農薬再評価を前に、昨年9月に優先審査品目が公表された。パラコートは、その使用量が少ないということもあってか、優先審査品目には指定されていない。
タイは先ごろ、健康への懸念から、農薬ロビーや農業団体の反対を抑えてパラコートを使用禁止するとともに、食品への残留を認めないとする規制強化に踏み切っている。米国の民主党議員は今年8月、ネオニコチノイド系農薬などとともにパラコートの禁止を含む農薬規制強化法案を議会に提出している。
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