

アルゼンチン農業省の科学技術研究委員会(CONICET)は10月8日、干ばつ耐性遺伝子組み換え小麦HB4が栽培と消費について、世界で初めて承認されたと発表した。栽培開始には、最大の輸出先であるブラジルの承認が必要だとしている。これまで遺伝子組み換え小麦の商業栽培は、世界中のどこでも始まっておらず世界初の承認となる。商業栽培には、最大の輸出先であるブラジルの承認も必要とされ、アルゼンチンの専門家は環境や健康への懸念から消費者が受け入れないことを指摘している。実際の商業栽培開始のハードルは高いとみている。
科学技術研究委員会(CONICET)はまた、この遺伝子組み換え小麦HB4の承認に向けた作業が、米国、ウルグアイ、パラグアイ、ボリビアで始まっているとしている、同委員会は、オーストラリアとロシアおよびアジアやアフリカの他の諸国向けに準備しているとしている。この発表では日本についての言及はなく、日本への申請はまだないようである。
・CONICET, 2020-10-8アルゼンチンは世界第4位の小麦生産国で、2019年、その45%はブラジルへ輸出されたという。ほかには、インドネシアやチリ、ケニアだという。
バイオセレスのフェデリコ・トルッコCEOは、「最初に説得しなければならないのはブラジルであり、それは大変な作業になるかもしれません」と主要な輸出市場であるブラジルからの承認を得るのは難しいと認めているという。
この承認に対してアルゼンチン国立種子研究所の専門家は、「遺伝子組み換え作物を使った製品が地元や海外の消費者に受け入れられないことや、遺伝子組み換え作物と非遺伝子組み換え作物を別々に生産することの難しさから、どの国も遺伝子組み換え小麦の使用を承認していない」と指摘している。そして、ブラジル政府から承認が得られたとしても、「製粉所、製パン所、消費者がこの遺伝子組み換え小麦を購入することに同意することを保証するものではない」と警告している。
・AFP, 2020-10-9今回承認された遺伝子組み換え小麦HB4は、除草剤グルホシネート耐性・干ばつ耐性品種だという。種子を供給するバイオセレス社は2018年、干ばつ耐性のHB4は、干ばつであっても通常品種より25%多い収量があると発表していた。同社はまた、輸出先となるブラジルの承認を得て商業栽培を開始の予定だとし、2019年に2万ヘクタール分のHB4の種子を供給できると説明していた。
・eFarmNews, 2018-11-16日本の財務省が公表している貿易統計によれば、2019年に日本は、飼料用などを除き505万トンの小麦を輸入しているが、アルゼンチンからの輸入はゼロである。小麦粉、ひきわり小麦、小麦グルテンなど小麦加工品でも、アルゼンチンからの輸入はない。
2004年、カナダでラウンドアップ耐性遺伝子組み換え小麦が商業栽培が始まろうとしたが、カナダの農業団体や消費者だけでなく世界的な反対を前に、モンサントは商業栽培を諦めている。これ以降、米国、カナダ、豪州の小麦生産者団体が、何度も商業栽培への希望を明らかにしてきたが、まだ始まってはいない。消費者の「ノー!」という声が、こうした商業栽培を阻んできた。
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