

東邦大学などの研究グループは9月24日、遺伝子組み換え作物が輸入される鹿島港などで除草剤グリホサート耐性スーパー雑草の一種のオオホナガアオゲイトウ(Amaranthus palmeri)が、日本の輸入港に定着したことを明らかにしたと専門誌に発表した。研究グループは、同じヒユ科植物との交雑による耐性遺伝子の拡散を懸念している。ヒユ属には雑穀のアマランサスや野菜のヒユナが含まれている。
研究グループは、日本の遺伝子組み換え作物(トウモロコシ、大豆、ワタ)の輸入港である、北は八戸港から、南は鹿児島港に至る全国の14港で、2014年から継続的に調査した結果、米国でも最も問題のあるスーパー雑草の一つの除草剤グリホサート耐性オオホナガアオゲイトウを鹿島港、水島港、博多港の3港で発見したという。鹿島港などで見つかった個体の遺伝子は、米国のグリホサート耐性オオホナガアオゲイトウの遺伝子と類似しているという。こうしたグリホサート耐性のオオホナガアオゲイトウは、陸揚げされた遺伝子組み換えトウモロコシや大豆に交じっていたものがこぼれ落ち、定着したことは想像に難くない。
調査した14港のうち5港(鹿島港、名古屋港、姫路港、水島港、博多港)で、オオホナガアオゲイトウが成長し、中でも鹿島港では沿道と中央分離帯の1.5Kmにわたって1万個体以上が繁茂していたという。鹿島港では2か所で調査がおこなわれた。そのうちの1か所での検出率は年々上がり、2017年には58個体中17個体、29%がグリホサート耐性だったという。水島港と博多港では調査した1ないし2個体からグリホサート耐性個体が見つかったとしている。
八戸港、鹿島港、千葉港、名古屋港、四日市港、神戸港、姫路港、坂出港、水島港、博多港、佐世保港、八代港、鹿児島港、志布志港

研究グループは、日本でグリホサートが最も広く使用されている除草剤の一つであることから、鹿島港で見られるようなグリホサート耐性の個体が定着し繁茂する状況は、グリホサート耐性オオホナガアオゲイトウがグリホサートで除草できない厄介な雑草になる可能性があると指摘している。そして、問題のある種がより広く広まる前に、効果的な防除対策を実施するためには、そのような問題ある種の最初の発見が重要であるという。
研究グループは、もう一つの懸念事項として、グリホサート耐性個体から、同じヒユ属の種と交雑し雑種を作ることで、グリホサート耐性遺伝子が広がっていくことを挙げている。現実に、米国の研究では、グリホサート耐性オオホナガアオゲイトウからハリビユ(A.spinousus)にグリホサート耐性遺伝子が伝達されたという。そして、ヒユ属の雑草は、日本でも問題のある雑草であり、橋頭保を築いた鹿島港のような個体群が、グリホサート耐性遺伝子の更なる個体群間拡散を果たす可能性があると指摘している。
・PlantsPeaplePlanet, 2020-9-24研究グループが交雑を懸念するヒユ属には、雑穀として利用されるアマランサスやセンニンコク(仙人穀)、アカアワ(赤粟)、野菜として利用されているヒユナ、園芸用のハゲイトウ(葉鶏頭)などが含まれている。ハゲイトウはグリホサート耐性遺伝子の拡散の踏み台となる可能性だけで済むとしても、アマランサスやセンニンコクなどの雑穀や野菜のヒユナは食用だけに、知らずして直接的にグリホサート耐性遺伝子を口にすることになる。除草剤耐性のトウモロコシや大豆などの健康影響は、食品安全委員会が審査し、「ヒトの健康を損なうおそれはない」としている。その健康影響評価の妥当性はともかく、ヒユ属の作物にグリホサート耐性遺伝子が拡散していった場合、その健康影響が調べられていない以上、予防原則に立ち、ヒユ属の食用作物との交雑可能性の確認とともに、早急に拡散させない対応が必要だ。
千葉港や四日市港など遺伝子組み換えナタネの輸入港周辺では、製油工場までの輸送ルートに沿ってこぼれ落ちたGMナタネが発芽し自生しつつある。これらの輸入港の一部では、市民に寄る抜き取り活動が根気よく続けられているが、根絶されてはいないという。東邦大学などの研究グループが明らかにしたグリホサート耐性オオホナガアオゲイトウについても、早め早めの対策が必要だ。研究グループの「広く広まる前に、効果的な防除対策を実施するためには、外来種の最初の発見が重要」という指摘はもっともであり、その先の対応が急がれる。農水省は輸入港周辺でのナタネと大豆の自生調査を継続して実施しているが、こうした除草剤耐性雑草についても調査し対処すべきではないか。
- グリホサートに環境ホルモン作用 妊娠中の暴露が多いほど生まれた女児に影響
- 輸入小麦 米国・カナダ産のほとんどからグリホサートを検出
- 東アジアは農薬のホットスポット 日本はトップ5
- イタリアのパスタメーカー グリホサート懸念からカナダ産小麦の輸入を削減
- 農薬使用量減少もリスクは増加 ネオニコが大きな要因
- 米国:残留農薬はイチゴがトップ
- 住友化学 米種子から販売まで 直播でクボタと共同研究 始まっている企業による農業「囲い込み」
- 神経伝達を遮断 新しいネオニコ系殺虫剤フルピリミン
- グリホサート製剤の補助剤でマルハナバチの死亡率に大きな差 補助剤の評価が必要
- グリホサート販売中止のダイソー 代替品は酢酸系とグルホシネート