2015年に国際がん研究機関(IARC)がグリホサートについて「おそらく発がん性がある」と評価して以来、ヒトの健康影響が問題となってきた。昨年7月には、産婦人科医の国際組織である国際産婦人科連合・発生環境衛生委員会は、この15年間に明らかになったエビデンスから、予防原則に則り、世界規模でのグリホサートを禁止するべきだとする勧告を発表している。米国では12万件余りの損害賠償請求訴訟も起き、モンサントを買収したバイエルに2千万ドルの賠償を命ずるカリフォルニア州最高裁の判決も出ている。このような中、この半年余りの間に、ヒトのグリホサートの健康に関係する研究発表が相次いでいる。
疾病への影響
千葉大学の研究グループは5月8日、マウスを使った実験で、グリホサート暴露がパーキンソン病の環境リスク因子である可能性があると発表した。
・Neuroscience Letters, 2020-5-7同じ千葉大学の研究グループは5月12日、やはりマウスを使った実験で、妊娠中のグリホサート暴露が子どもの自閉症の発症に影響する可能性があると発表した。研究グループは、今後、妊婦を対象としたグリホサート暴露と子ども自閉症発症の追跡調査を提案している。
・PNAS, 2020-5-12 ・千葉大学, 2020-5-12生殖への影響
スぺインとイタリアの研究グループは7月3日、豚をモデルにした、ラウンドアップとグリホサートの哺乳類の精子に及ぼす影響に関する研究の結果、グリホサートだけとグリホサートが主成分のラウンドアップが、雄の生殖細胞に悪影響を与え、ラウンドアップの方がより毒性が強いと専門誌に発表した。
・Scientific Reports, 2020-7-3アルゼンチンの研究グループは7月5日、妊娠中のラットにグリホサート系製剤とグリホサートを妊娠日9日から離乳まで経口投与すると、その親から生まれた雌のラットで着床失敗が増加。グリホサートとグリホサート系製剤が着床異常に関連している可能性があると発表した。
・Food and Chemical Toxicology, 2020-7-5フランスのラ・ロシェル大学の研究グループは7月22日、グリホサートの代謝物質のAMPA(アミノメチルホスホン酸)は、低い濃度でトゲヒキガエルの発生に影響を与えていると発表した。自然の水域で見られるAMPAの濃度範囲(1リットル当たり0.07 から 3.57 μg)の濃度で、欧州で一般的にみられるヒキガエルの胚の発生や生育に対するAMPAの影響を実験。公的な予測無影響濃度より100〜6000倍低い濃度で、胚の生存率の低下、発生期間の増加、孵化した幼生の形態に影響が現れたという。規制上の意思決定は、高用量試験による無影響濃度の推論に留まらないことが必要であると指摘している。
・Environmental Research, 2020-7-22イタリア・サレント大学などの研究グループは11月26日、除草剤グリホサートとグルホシネートは低い濃度で、ヒト精子のミトコンドリアに悪影響を与えると専門誌に発表した。
・Reproductive Toxicology, 2020-11-26環境ホルモン作用
アルゼンチンの国立科学技術委員会(CONICET)とリトラル大学(UNL)の研究グループは7月10日、グリホサートが内分泌かく乱物質(環境ホルモン)であり、雌の生殖に影響すると、グリホサートに関するこれまでの研究のレビュー結果を専門誌に発表した。低用量のグリホサートへの暴露は、雌の生殖器官の発達も変化させ、生殖能力に影響を及ぼす可能性があると指摘している。そして、グリホサートの曝露は、卵胞と子宮の発達と分化を変化させ、動物が思春期前に曝露された場合の受精能力に影響することを示しているという。また、妊娠中のグリホサートへの暴露は、子孫(F1およびF2)の発育を変化させる可能性があるとしている。
・Molecular and Cellular Endocrinology, 2020-7-10 ・Unidad de Vinculacion Ecologista, 2020-11-24イタリア・トリノ大学などの研究グループは8月5日、グリホサートとネオニコ系のチアクロプリドとイミダクロプリドが、比較的高い濃度で内分泌かく乱化学物質(環境ホルモン)の可能性を示したとする研究結果を発表した。研究結果について、グリホサートはアロマターゼ阻害剤として作用し、イミダクロプリドとチアクロプリドはエストロゲンのシグナル伝達を阻害することから、3種類の農薬は内分泌撹乱化学物質の可能性があることが示されたとしている。
・Environmental Research and Pblic Health, 2020-8-5チリ・タラパカ大学とコロンビア大学メディカルセンターの研究グループは、包括的なレビューの結果、グリホサートが内分泌かく乱物質(EDCs)の10の特性のうち8項目を満たしていると発表した。
・Chemosphere, 2020-10-19 ・USRTK, 2020-11-13遺伝毒性
ブラジルの研究グループは10月17日、オタマジャクシを使った実験で、グリホサートに遺伝毒性があるとする研究結果を発表した。オタマジャクシをブラジルの法律で認められた濃度と、ブラジルとアルゼンチンの水域で自然に見られる濃度(500、700および1000μg/L)で曝露したところ、すべての濃度のグリホサートは赤血球核異常を引き起こしたという。研究グループは、グリホサートに遺伝毒性があると考えられ、ブラジルの法律で許可されているグリホサート濃度は、遺伝毒性を有する可能性があると指摘している。
・Environmental Toxicology and Pharmacology, 2020-10-17腸内細菌叢への影響
フィンランドのトゥルク大学の研究グループは11月14日、グリホサートがヒトの腸内細菌叢に影響を与える可能性があると専門誌に発表した。ヒトの腸内細菌叢が多くの病気に関係しているとみられていて、グリホサートの広範な使用はヒトの健康にも強い影響を与える可能性があるという。
研究グループによれば、ヒトの腸内細菌叢の54%がグリホサートに潜在的に敏感で影響を受ける可能性があるという。また、土壌や植物の表面、動物の腸内には、豊かで多様な微生物群が生息しているが、グリホサートの残留量が少なくても、これらの微生物群における害虫や病原体の発生に間接的に影響を与える可能性があると指摘している。
・Journal of Hazardous Materials, 2020-11-14 ・University of Turku2020-11-20【関連記事】
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