最終更新日:2020年12月7日
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■GMゴールデンライスの商業栽培 根強い反対の声
Golden-Rice_1.jpg / Flickr
遺伝子組み換えゴールデンライス Rice / IRRI / Flickr

 アルゼンチン政府は今年10月、世界初の遺伝子組み換え小麦の商業栽培を承認した。主食作物の一つ小麦で、遺伝子組み換え品種の流通が始まろうとしている。農民などの根強い反対の中、コメでも遺伝子組み換え品種の導入に向けた動きが本格化してきた。フィリピン農業省はこのほど、遺伝子組み換えでカロテンを「強化」した遺伝子組み換え(GM)ゴールデンライスの商業栽培に向けた意見公募を始めた。フィリピン稲研究所の担当者は、2023年に市場流通が始まることを期待している、とコメントしたという。

 フィリピン稲研究所は11月20日、農業省によるGMゴールデンライスの商業栽培に関する意見公募が始まったと発表した。フィリピン農業植物産業局は昨年12月、GMゴールデンライスに関し「従来のコメと同じように安全である」として食品、飼料、加工用に承認している。ただ、この承認は24年12月までの期限付き承認となっているという。今回の意見公募は承認手続きの次の段階となる。

 フィリピン稲研究所は、ビタミンA欠乏症の発生率が高いルソン州などの7地区でゴールデンライスのパイロット規模の展開を視野に入れているである、とオルドニオ氏は述べたという。

 フィリピン政府の承認に先立ち、国際稲研究所(IRRI)は、GMゴールデンライスの販売の計画は全くない状況で、米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドで食品としての承認申請を行い、いずれも承認されている。これらの国は、主食がコメではなく、1日の摂取量に大きな差があるにもかかわらず、国際稲研究所(IRRI)はこれらの承認をお墨付きのように宣伝していた。

 こうしたお墨付き承認の後、フィリピン政府は昨年12月、遺伝子組み換えのゴールデンライス(GR2E)が従来品と同様に人間の消費にとって「安全」であるとして、ゴールデンライス(GR2E)の食品、飼料、加工(FFP)について承認していた。

 国際稲研究所は10年以上にわたり、たびたび商業栽培開始間近をアナウンスしてきたが、まだ承認を得られていない。今回のフィリピン稲研究所の申請を受けた意見公募の手続きは、商業栽培開始への途中だという。フィリピン稲研究所のゴールデンライスプロジェクトのオルドニオ氏は、商業栽培の承認後、品種登録などがあり、2023年の市場での流通を期待しているが、商業栽培への反対が承認をさらに先延ばしする可能性があることも分かっていると述べているという。

 ・PhilRice, 2020-11-20  ・Business Mirror, 2020-11-23  ・ISAAA GM Approval Database
  GR2E

 フィリピンの農民団体マシパグ(MASIPAG)によれば、GMゴールデンライスの開発には、ゲイツ財団などから「国際的な支援」を受け、これまでに1億3千万ドルがつぎ込まれたとみられているという。国際稲研究所はこれまでに、ゲイツ財団のほか米国国際開発庁(USAID)などから支援を受けていると公表している。

 ・MASIPAG, 2020-8-6

 フィリピンではGMゴールデンライスに反対するする農民などの運動が続いている。2013年8月には、農民400人が試験栽培中のGMゴールデンライスを抜き取る直接行動=「合法的な抵抗」(Sikwal-GMO)を行った。この8月の記念日に合わせ、フィリピンの農民組織マシパグなどで構成するストップ・ゴールデンライス運動は今年、一週間の連続行動を展開した。

 ・Bulatlat, 2013-8-9  ・UPLB Perspective, 2020-8-7

 昨年12月、フィリピン農務省植物産業局は「従来のコメと同じように安全である」として、GMゴールデンライスについて食品、飼料、加工用に承認した。これに対して農民団体マシパグ(MASIPAG)は、この承認は、国際稲研究所(IRRI)とフィリピン稲研究所(Philrice)、農務省植物産業局(DA-BPI)による共謀だと、非難声明を発表している。マシパグはこの声明で、この承認が人びとの健康と環境を脅かすだけでなく、コメ生産の未来と農民の種子管理をも脅かすと指摘した。フィリピンやその他の国の農業者や消費者は、ゴールデン・ライスは発展途上国の脆弱な部門のビタミンA欠乏症に対処するものではなく、実際には企業の農業に対する支配力を高める手段であるとしている。

 ・IRRI, 2019-12-18  ・MASIPAG, 2019-12-19

 GMゴールデンライス(GR2E)は、元々イネには含まれていないベータカロテンを遺伝子組み換えによって作り出すようにしたもので、途上国に多いビタミンA欠乏症への効果的な対抗策という触れ込みで登場してきた。フィリピンの農民団体マシパグなど農民団体、消費者団体は、多様で安全なビタミンAを含む食料を容易に入手できるようにすることが解決策だと批判している。

 GMゴールデンライス(GR2E)はこれまでに、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、米国で食品として承認されている。2018年3月、カナダ保健省は承認に当たり、GR2Eはカナダでの販売を目的としていない上に、カナダ人の米の摂取量からしてβカロテンの摂取増加量はほとんどないと評価し、このGMゴールデンライスがビタミンA欠乏症に有効であるかは評価していないと発表している。これら先進国での承認は、食品としての「安全」に、先進国の「お墨付き」を与えるだけにすぎない。

 GMゴールデンライスの「欠陥」は、これまでにイネの多様性に及ぼす影響以外にも指摘されている。一つには収量の低下であり、インドでの試験栽培で確認されたという。二つには、生成されるベータカロテンは少ない上に、常温での保存性が悪く、冷温保存が必要だと指摘されている。マシパグなどは、このような不安定で、イネの遺伝的な多様性に影響を与えるGMゴールデンライスを栽培するよりも、カボチャなどに代表されるビタミンAを多く含む食品が取れるようにすることが必要だ。

 GMゴールデンライスはフィリピン以外でも栽培へ向けた動きがある。昨年11月にはバングラデシュが承認すると報じられてきたが、承認寸前でストップしているという。

 GMゴールデンライスに関しては昨年11月、カナダ・バイオテクノロジー行動ネットワーク(CBAN)がファクトシートを取りまとめて公表している。

 ・Canadian Biotechnology Action Network, 2019-11
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