

欧州の環境などの77のNGOは昨年11月5日、EUの禁止農薬の輸出とそれらを使用した食品の輸入禁止を求める公開書簡を、欧州委員会上級副委員長と関連する3委員に送った。欧州委員会は昨年10月、2023年までにEU禁止農薬の輸出禁止の方針を明記した化学物質戦略を採択している。昨年7月には、国連人権理事会の特別報告者バスクト・トゥンジャクさんが、欧米などの富裕国で禁止されている有毒な化学物質を、より貧しい国へ輸出するのを止めなければならないという声明を発表している。危険な農薬輸出は、年間4万トン余りの農薬を輸出している日本の問題でもある。
NGOの公開書簡は、2018年にEUが禁止している41種類の有害化学物質8万1千トン以上を輸出していると指摘し、これは二重基準だと批判するとともに、欧州委員会の「有害物質のない環境に向けた持続可能な化学物質戦略」の採択を歓迎するとしている。
さらに、2018年にEUでの食品検査の結果、EUで禁止されている74種類の残留農薬が検出され、そのうち22種類がEUから輸出されていると指摘している。このことは生産国の農業従事者、一般住民、環境の健康を危険にさらし、欧州の消費者の健康を危険にさらす可能性があると指摘している。
・PAN Europe, 2020-11-5欧州委員会昨年10月14日、「有害物質のない環境に向けた持続可能な化学物質戦略」を採択した。消費者製品における最も有害な化学物質の使用を禁止や、PFASなどの難分解性物質を含む最有害物質について、その使用が社会にとって不可欠な証明がなされない限り段階的に排除するという。
今回の欧州のNGOによる公開書簡は、欧州委員会の禁止農薬の輸出禁止方針を後押しするとともに、さらに禁止農薬が残留する食品の輸入禁止を求めることで、より有害で危険な農薬の世界的な使用を規制する方向に誘導しようといううものといえる。
EU 禁止農薬輸出規制へ向けて法改正を含む選択肢を検討と回答
欧州委員会は昨年12月9日、NGOの公開書簡に対する回答書をPANヨーロッパに送り、EU法の改正を含むあらゆる選択肢を検討していると回答した。
回答書の中で欧州委員会は、「現行のEU規則は、ロッテルダム条約に規定する52物質を上回る120物質について輸入国の明示的な同意を求めています。さらに、持続可能性のための化学物質戦略は、EUで禁止されている農薬を含む有害化学物質の輸出を阻止することで、さらなる発展を目指しています。欧州委員会は現在、法改正を含め、この目標を実施するためのさまざまな選択肢を検討しています」と回答している。
この回答にPANヨーロッパの科学政策担当のアンジェリキ・リシマチョウさんは1月18日、「PANヨーロッパは、二重基準という不名誉な慣行に終止符を打つという欧州委員会のコミットメントを歓迎するとともに、EUが世界的に有害農薬の排除に向けてリーダーシップを発揮することを期待しています」と述べている。
リシマチョウさんは、「欧州委員会は今、その約束を果たし、人の健康や環境にあまりにも危険であることが知られている農薬を第三国に輸出して利益を上げている企業や、そのような化学物質で生産された食品の輸入が犯罪とみなされるように、EU法を改正することを確実にしなければなりません」としている。さらに、こうした禁止農薬の輸出禁止への動きは、欧州レベルで限定すべきではなく、世界的に有害性の高い農薬の段階的廃止を促進するための新たな国連メカニズムの確立に向けて欧州委員会は動くべきだとしている。
・PAN Europe, 2021-1-18 ・EU Commission, 2020-12-9スイス 21年1月から禁止農薬の輸出を禁止
スイス政府は10月14日、すでにスイスで禁止されているアトラジンやジアフェンチロン、メチダチオン、パラカン、プロフェノフォスを含む農薬の輸出を禁止した。同時にスイスで禁止されている他の農薬類の輸出について輸出先の国が明確に承認した場合にのみ輸出を許可する方針を明確にし、化学物質に関する法律の改正を承認した。のの改正に関し、発展途上国を中心とした輸入国の健康と環境を守ることを目的としているとコメントしているいう。
この政府方針を受けて、スイスのNGOのパブリック・アイは10月14日、スイスで禁止されている一部の農薬の輸出禁止の決定を歓迎するという声明を発表した。さらに踏み込んで、環境や健康上の理由で国内で禁止されているすべての農薬の輸出を禁止するよう求めた。シンジェンタはもはや目をつぶることはできないと指摘した。
スイスでは昨年9月、農薬ジアフェンチウロン剤(商品名Polo)で中毒死したインド農民の遺族などが、輸出したシンジェンタを相手取って賠償と販売停止を求めて提訴していた。
・SwissInfo, 2020-10-15
Swiss ban export of highly dangerous pesticides ・Public Eye, 2020-10-14フランス憲法院 禁止農薬の製造・輸出禁止を合憲と判断
フランスは2018年に改正された農業食料法に、EUの禁止農薬を含む農薬製剤のフランスでの生産と輸出禁止を盛り込み、22年より施行することになっている。農薬・種子業界はこの規定が企業活動を大きく制限するものとして反対し提訴していた。フランス憲法院は今年1月、EUの禁止農薬を含む農薬のフランスでの生産と輸出の禁止は正当であると確認し、「立法府は、フランスで行われる活動が海外の環境に及ぼす影響を考慮に入れることが正当化される」と判断しているという。
この輸出禁止規定は2018年に公布された農業食料法に盛り込まれ、22年より禁止農薬のフランス国内での生産や輸出が禁止されることになるという。農薬・種子業界はこの規定が企業活動を大きく制限するものとして反対していたが、憲法院の判断に「遺憾」「可能な法的手段を検討する」とコメントしている。
この憲法院の判断にフランスの環境NGOは、「自分の領域でしたくないことを他人にしないことが大切である」「歴史的な前進」「環境保護は企業の利益に優先する」などと歓迎しているという。
・France 24, 2020-1-31年間4万トンの農薬を輸出する日本<
『農薬要覧』によると、日本は2019年度に4万トン余りの農薬(原体、製剤合計)を輸出している。この中には、世界的に禁止や規制強化の方向に進んでいるネオニコチノイド系農薬が含まれている。仕向け先は不明だが、原体と製剤を合わせて約1500トンを輸出している。

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