

英国のロザムステッド研究所の研究グループは2月26日、ゲノム編集により発がん性のあるアクリルアミドの前駆体であるアスパラギンの含有量を減らした小麦を作り出したと専門誌に発表した。この低アスパラギン小麦は、アスパラギン合成酵素遺伝子をノックアウトさせたもので、外来遺伝子の挿入はないとしている。商業化には5年から10年かかるとしている。この小麦はアスパラギンが野生型小麦に比べ少ないものの、発芽率が低かったとしている。
ロザムステッド研究所の発表では、英国政府の試験栽培の承認に向けて準備を進めている段階であり、アスパラギンの含有量だけでなく、収量やタンパク質含有量、その他の品質や栽培性などを圃場で確認する必要があるとしている。そして、圃場試験がうまくいけば、小麦の育種に利用できるようになる可能性があるが、低アスパラギン小麦の市場流通が可能になるには5年から10年かかるとしている。
小麦は米と並ぶ主要な主食穀類であり、遺伝子操作の小麦が消費者に受容される可能性は低いのではないか。世界で初めて商業栽培が認められたアルゼンチンの遺伝子組み換え小麦は、アルゼンチンはもとより、その大きな輸出先であるブラジルの穀物業界の反対に直面して商業栽培開始の目途は立っていない。

欧州連合(EU)は欧州司法裁判所の決定により、ノックアウトであってもゲノム編集で遺伝子を操作した場合、従来の遺伝子組み換えにあたり、同等の規制が必要となっている。EUを離脱した英国では現在、この規制の見直しが進められていて、外来遺伝子の挿入を伴わない、特定遺伝子のノックアウトによるこの低アスパラギン小麦は、非遺伝子組み換えとして扱われる可能性がある。一方、日本や米国では非遺伝子組み換えとして扱われる。
アクリルアミドについて国際がん研究機関は、「ヒトに対しておそらく発がん性がある物質(グループ2A)」と分類している。FAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)は、食品中のアクリルアミドについて詳細なリスク評価を行い、食品からのアクリルアミド摂取が、ヒトの神経の形態変化や発がんを引き起こす懸念があると評価し、食品中のアクリルアミドを低減するための取組みを勧告している。
・Plant Biotechnology Journal, 2021-2-26 ・Rothamsted Research, 2021-3-1 ・農水省ロザムステッド研究所はこれまでに、害虫抵抗性や除草剤耐性・光合成強化の遺伝子組み換え小麦を開発しているが、いずれも商業栽培には至っていない。それらの試験栽培には、流出と遺伝子汚染を懸念する周辺農家や環境団体などが反対運動を展開していた。
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