メキシコは昨年12月末に大統領令により、2024年までにグリホサートの段階的禁止と遺伝子組み換えトウモロコシの輸入禁止などを明確にした。この決定に至るまでに、トランプ政権下の米国通商代表部(USTR)と米国環境保護庁(EPA)、バイエル、に業界団体のクロップライフが、グリホサート禁止を葬るために圧力をかけていた工作が明らかになったと、ガーディアン(電子版)が報じている。
昨年12月末のメキシコ政府の発表で、この水面下の工作は成功しなかったが、バイデン政権がこの工作を継続しているかははっきりしていないとしている。米国は2019年、タイが一度は禁止を決定したグリホサート禁止にも、通商代表部によるタイ産品の輸入禁止をちらつかせ圧力をかけ、グリホサート禁止を葬ることに成功している。この反グリホサート禁止工作には、クロップライフも圧力をかけていたことが明らかになっている。
ガーディアンは2月16日、米国の生物多様性センターが情報公開法を使い入手した関連する電子メールを分析して明らかになったとして、米国とバイエル、クロップライフの工作の一端を報じた。業界幹部は電子メールで、グリホサートの制限が他の農薬の制限につながり、他の国が同様の政策をとる前例を作ることになるのではないかと懸念している、と米国政府関係者に伝えたという。業界幹部はまた、メキシコが食品の残留農薬の許容レベルを下げる可能性があると警告していたという。
クロップライフのバック氏は米国当局者への書簡で「メキシコが食品中の残留農薬レベルに「予防原則」を拡大すれば、「メキシコへの米国の年間農産物輸出額200億ドルが危うくなる」と書いているという。
米国通商代表部の内部情報によると、この問題を20年7月に発効した米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)で解決するよう業界団体がUSTRに働きかけ、米国農務省とも協力していたという。ガーディアンによれば、米国通商代表部は回答を拒否していて、バイデン新政権がこうした工作を継続しているか分からないという。
こうした米国政府と業界による工作に対して、生物多様性センターのネイサン・ドンリーさんは、「農薬産業が米国政府を利用して、国際舞台で積極的に計略を推し進め、他国の人たちが食料供給をコントロールしようとする試みを阻止しようとしていることを目の当たりにしています」と述べている。
・Guardian, 2021-2-16メキシコはGMトウモロコシとグリホサートの禁止を止めない
米国政府と農薬業界のメキシコ政府への工作の一端が明らかになったが、メキシコ政府はグリホサートの段階的禁止と遺伝子組み換えトウモロコシの輸入禁止政策を進めようとしている。
禁止の大統領令に関し、連邦政府農業省のビクトル・スアレス次官はこのほど、遺伝子組み換えトウモロコシと除草剤グリホサートはあまりにも危険であり、国内自給と持続可能なアグロエコロジーの実践が優先されるべきだと語ったとロイターなどが報じている。
スアレス次官は、メキシコの食料自給率向上という政府の目標達成には、遺伝子組み換えトウモロコシとグリホサートは必要がないとし、「経済やビジネスよりも、生命の権利、健康への権利、健全な環境への権利を優先させなければならない」とも述べているという。
スアレス次官はまた、昨年12月末の大統領令が加工食品と飼料の両方に適用されるかという質問に対して、最終的に人が消費するすべての食品を対象としていると答えたという。
・Reuters, 2021-2-19 ・Explica, 2021-2-20【関連記事】
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