イミダクロプリドなど従来のネオニコチノイド系殺虫剤が、ミツバチに有害として規制される動きが世界的に広がる一方で、スルホキサフロルなどがミツバチにやさしいとの触れ込みで続々と承認されてきた。これまでのネオニコチノイド系殺虫剤が神経を興奮させる作用だったが、逆に神経伝達を遮断するタイプのネオニコチノイド系殺虫剤が登場している。
農水省は3月10日、ニコチン性アセチルコリン受容体に作用する新しいタイプの殺虫剤のフルピリミンについて、開発元のMeiji Seika ファルマなどの6剤を稲用として農薬登録した。フルピリミンは、これまでのネオニコ系に比べ、セイヨウミツバチやアキアカネへの影響が小さいことをうたい文句にして、2019年6月に初めて登録されて以来、今回で合計22剤が登録されている。
従来のジノテフランなどのネオニコ系殺虫剤は、ニコチン性アセチルコリン受容体と結合して、そのイオンチャンネルを解放状態にして、ナトリウムイオンが流れ続けて神経細胞を興奮させることで殺虫効果を得ていた。それに対してフルピリミンは、ニコチン性アセチルコリン受容体と結合して、そのイオンチャンネルを閉鎖させることで神経伝達を遮断させて殺虫効果を得るという。作用メカニズムが、これまでのネオニコ系と異なっている。そして、従来のネオニコ系と同じ浸透移行性であり、残効性も長いとしている。
開発元のMeiji Seika ファルマや、製品を発売しているクミアイ化学などによれば、フルピリミンは水稲の初期害虫やウンカ類、チョウ目害虫、イナゴ類、ハエ類、カメムシ類に高い効果を示し、これまでの殺虫剤に対し感受性が低下した害虫に対しても効果を示すとしている。その一方で、セイヨウミツバチやマルハナバチなどには毒性が低く、ほとんど影響せず、「環境に与える負荷が小さいことが特長」だとしている。また、アキアカネのヤゴに対しても影響がないとしている。
ネオニコチノイド系農薬が危険だとされる理由の一つが、ミツバチなどの受粉を媒介する昆虫への影響が大きいことがある。Meiji Seika ファルマは、フルピリミンがセイヨウミツバチに影響がないことを強調することで、「安全である」と差別化を図ろうとしているのは明らか。
公表されている農薬登録の審査報告書によれば、セイヨウミツバチに対する経口半数致死量(LD50)では、日本で一番出荷量の多いジノフランでは0.02[μg/頭]に対して、フルピリミンは53.6[μg/頭]以上だったとしている。これをみる限り、影響は少ないようにもみえる。
また、フルピリミン製剤を販売しているクミアイ化学の技術資料によれば、2%箱処理剤を箱当たり50グラム使用したとして、水田で生育するアキアカネのヤゴには影響がなかったとしている。
フルピリミンがセイヨウミツバチに「安全」であったとしても、他の非標的生物に対する影響はまだはっきりしていない。これまでのネオニコ系殺虫剤の花粉媒介昆虫(ポリネーター)への影響研究では、例えば、国立環境研究所などの研究で、ニホンミツバチがセイヨウミツバチよりも影響が大きいという結果も示されている。さらに、実際に混合して使用される補助剤の影響や、それらとの複合的な影響は明らかではない。セイヨウミツバチのような「有用生物」に対して「ほとんど影響がない」という評価が妥当なのかははっきりしない。農薬登録にかかる審査報告書によれば、提出された試験データのほとんどは未公表である。
フルピリミンは、世界農薬工業連盟(CropLife)の殺虫剤抵抗性管理委員会(IRAC)の農薬分類では、最新版の20年3月版では未掲載である。
・農水省, 2019-10-25 ・環境省, 2018-12 ・クミアイ化学 ・クミアイ化学 ・Journal of Pesticide Science, 2020-5-20フルピリミンが初めて農薬登録された2019年6月、開発したMeiji Seikaファルマは、フルピリミンのライセンス先のアリスタライフサイエンスの親会社であるUPLが、インドでフルピリミンの登録を申請した、と発表している。インドでの登録や、原体輸出量などは不明。Meiji Seika ファルマは2018年、フルピリミンの水稲分野のインドでの独占契約をアリスタライフサイエンスと締結し、アリスタがインドで登録申請を行ったと発表している。アリスタライフサイエンスは2019年2月、インドの農薬企業UPLが買収し、その傘下に入っている。
・Meiji Seikaファルマ, 2019-6-27農薬登録にあたり食品安全委員会は、遺伝毒性はないと評価し、一日摂取許容量(ADI)を0.011mg/kg体重/日に、急性参照用量(ARfD)を0.08mg/kg体重と決定している。この評価を受けて厚労省は、フルピリミンの残留基準値を、米に対して0.7ppmとした。
・食品安全委員会, 2017-11-22 ・厚労省, 2018-10【関連記事】
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