ダウ・デュポンより分社したコルテバの子会社のパイオニア・ハイブレッドは昨年12月、ゲノム編集技術を使った除草剤耐性・害虫抵抗性遺伝子組み換えトウモロコシの承認をEUに申請した。この遺伝子組み換えトウモロコシDP915635は、2段階の手順を踏んで除草剤グルホシネート耐性遺伝子とシダ類(Ophioglossum pendulum)由来の殺虫毒素遺伝子を組み込んでいるとしている。テストバイオテックは、得られた形質やリスクの低減という点では何の進歩もないと評している。
手順はまず、CRISPR/Casを使い、トウモロコシのゲノムの特定位置に「ランディングパッド」と称する配列を配置する。次にアグロバクテリウムを使い、「ランディングパッド」の位置にグルホシネート耐性遺伝子と殺虫毒素遺伝子を組み込むという。この「ランディングパッド」を配置することで、組み込む外来遺伝子がランダムに組み込まれていたこれまでの遺伝子組み換えに対して、組み込む位置をより正確に特定できるという開発上のメリットがあるという。
ドイツの独立系検査機関のテストバイオテックは、ゲノム編集技術を使ったとしても、遺伝子組み換え作物の環境や食に対するリスクが低減されるわけではないと指摘する。この遺伝子組み換えトウモロコシが、このような手間のかかる方法2段階の手順を踏んでいるのは、CRISPR/Casが長いDNA配列を挿入する効率が低いためだという。そして、このようにして得られた組換え植物は、「古い遺伝子組み換え」の方法と比較しても、その得られた形質やリスクの低減という点では何の進歩もないとしている。
テストバイオテックのクリストフ・ザーンさんは、「過去30年間、バイオ企業は主に除草剤耐性や殺虫毒素を持つ植物を作り出し、販売してきました。その結果、環境への影響が大きくなりました」、「このケースでは、CRISPR/Casが実際の利益をもたらさないことは興味深いことです。この多段階プロセスは、リスクを伴う多くの意図しないゲノムの変化をもたらします。同時に、植物の形質は環境に対して真の利点をもたらしません」と、このパイオニアの技術の問題点を指摘している。
・Testbiotech, 2021-4-22 ・申請書昨年12月、サナテックシードのゲノム編集トマトが「承認」された。一般的に「ゲノム編集」はこれまでの「遺伝子組み換え」と異なる、どちらか言えば「安全」であり「将来性のある技術」という印象がマスコミなどで流布されている。しかし、テストバイオテックのクリストフ・ザーンさんが指摘するように、企業の利益には貢献するかもしれないが、そのイメージとは裏腹に、新たに作り出される作物が、必ずしも環境やヒトの健康リスクを減らすとは限らない。現に、このパイオニオアの申請した遺伝子組み換えトウモロコシは、生殖毒性の疑いがある除草剤グルホシネート耐性である。生殖毒性が疑いからグルホシネートは、2017年にフランスで禁止され、EUも2018年に登録延長せず失効している。この新たな遺伝子組み換えトウモロコシの栽培で、食や環境へのリスクとともに、グルホシネートを使う農家や農業労働者の健康被害への懸念も減るわけではない。これまでに、新たな除草剤耐性作物は除草剤の使用量増加に直結している、という研究結果も発表されている。
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