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農水省は2050年の「カーボンニュートラル」へ向けた「みどりの食料システム戦略」を正式に決定した。有機農業の100万ヘクタールへの拡大、化学肥料使用量の30%低減とともに、《化学農薬使用量(リスク換算)の50%低減を目指す》と、化学農薬の低減目標を挙げた。この目標値の「50%」は個々の農薬の《リスク》をもとに削減するという。農水省の農業資材審議会農薬分科会(第25回)で、このリスク換算は、有効成分ベースで、かつヒトへのリスク評価値であるADI(一日摂取許容量)を元にして計算するとの考え方が示された。リスクベースで評価、算定するとしたことは、単なる出荷量ベースからは一歩前進かもしれない。しかし、このリスクをどう設定するかでその中身が大きく違ってくる。ADIだけでは、ミツバチに代表される環境や生物多様性へのリスクが算入されず「まやかし」と言わざるを得ない。
5月25日の農薬分科会で示された化学農薬使用量(リスク換算)の求め方は、農薬の有効成分ごとにADI(一日摂取許容量)に基づく「リスク係数」を設定し、出荷量を掛けてリスク量を決めるというものである。
×「リスク係数※」)
※「リスク係数」は、ADIを基に係数を決定。
ADIが小さいほどヒトに対する健康リスクは大きく、ADIが大きいほどリスクは小さい。具体的なリスク係数の決め方ははっきりしないが、出荷量をADIで割れば、ヒトへのリスクを考慮したリスク換算出荷量が算出できることになる。
・農水省, 2021-5-12 ・農業資材審議会農薬分科会(第25回), 2021-4-21 ・農業資材審議会農薬分科会(第26回), 2021-5-21農水省の示した考え方には、大きく2つの問題がある。一つは「有効成分ベース」で算出するという点である。現在の農薬評価は「有効成分」でのみ行われているが、有効成分よりも補助剤の影響が大きいという研究がいくつも発表されているように、補助剤の影響が全く考慮されない形となっている。
農薬分科会は2019年、補助剤は農薬メーカーの知的財産として非公開を決めている。補助剤の内容は、これまでと同様にブラックボックスのままであり、その毒性は《リスク》には含まれない。
・農業資材審議会農薬分科会, 2019-11-6もう一つは、環境リスクが反映されないという点である。農薬のリスクはヒトに対するリスクとともに環境へのリスクがある。農水省の示したリスク換算農薬使用量の考え方は、環境へのリスクが抜け落ちていて不十分である。「みどりの食料システム戦略」が特記しているネオニコチノイド系農薬が世界的な問題になったのは、ヒトへの健康影響ではなくミツバチに代表される生態系への影響が大きかったからである。ADIはヒトの健康影響評価値であり、それだけでは多様な生態系へのリスクが全く抜け落ちている。
この環境影響リスクの算入という点では、ネオニコチノイド系農薬のようにADIはさほど小さくないが、その一方でミツバチなどには影響が多い農薬の場合ほど、リスクの少ない農薬として評価されることになる。
この片手落ちは、例えば、ヒトのADIに基づいたリスク係数に、ミツバチのような環境指標生物への影響度を加算して、一定の環境への影響を含んだリスク係数を設定することで補正することが可能になる。ただし、この方法でも、農薬によって指標となる影響の大きな生物が異なる点をどのように補正するかが問題となる。
ネオニコチノイド系農薬を例に考えてみる。
アセタミプリドのADIは0.071(mg/Kg 体重/日)であり、ジノテフランは0.22(mg/Kg 体重/日)で、ジノテフランの方がヒトへのリスクは小さい。しかし、ミツバチの影響を1匹当たりの48時間のLD50では、アセタミプリド8.09(μg/頭)に対して0.041(μg/頭)と、ジノテフランの方が約50倍厳しい。そこで、この2つの指標値の逆数を加算すれば、アセタミプリド(14.2)がジノテフラン(28.9)よりトータルのリスク値が小さくなり、環境影響もある程度考慮したリスク係数となりうる。具体的なリスク係数の決め方別にしても、環境リスクを考慮したリスク係数の決め方が必要だ。
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