

欧米でのミツバチの大量死などから、ネオニコチノイド系農薬の生態系への悪影響が明らかになり、欧米を中心に規制が進んでいる。研究が進み、ヒトの健康影響が次第に明らかになってきている。ネオニコチノイド系農薬は昆虫の神経系に作用することで殺虫効果があるとされる。ヒトに対しても同じような神経系への作用が少しずつ明らかになってきているという。こうした悪影響は、ことに子どもにとっては大きな問題となるが、ネオニコチノイド系農薬のヒトへの影響をテーマにした映像作品の制作が始まり、《子どもをネオニコから守ろう!》とクラウドファンディングで支援を募っている。
この映像作品『浸透性農薬<ネオニコチノイド>はヒトにとって安全か? ―最新研究から検証する』(仮題)はアクト・ビヨンド・トラスト(abt)の企画で、アジア太平洋資料センター(PARC)との共同制作。11月下旬の完成を目指して、9月から制作を進めている。
アジア太平洋資料センターは2018年、農薬に曝されるフィリピンのバナナ農園で働く労働者や地域の住民の苦境を描いた『甘いバナナの苦い現実』を制作している。PARCはこの作品の制作でネオニコチノイド系農薬の問題への関心を深めるようになったという。オーディオ・ヴィジュアル担当の奥村勇斗さんは、「フィリピン・ミンダナオ島の栽培現地では、バナナ農園で空中散布を含む複数の用途でネオニコが使用されていることが近年のバナナ調査の中で浮き彫りにされてきました。しかし、他の多くの使用農薬についてもそうですが、その人体への影響については現地の労働者はほとんど何も知らされていません」という。この問題は、農薬散布に曝されるフィリピンの人びとの問題である一方で、大量の農薬を使ったバナナを食べる日本の消費者の問題でもある。PARCは日本の消費者だけでなく、こうした農業労働者らに十分にリスクが伝えられ、そのことをきっかけに使用禁止運動への機運を高めるために人体への影響をファクトに基づいて正確に伝える調査研究を進めたいと考えていたという。そうしたところ、アクト・ビヨンド・トラストの企画の話が持ち上がり共同制作することになったという。
ネオニコチノイド系農薬のヒトの健康影響をテーマにして、科学的な知見に立脚した映像作品は、日本でも世界でもほとんどない。制作中の作品の監修者の平久美子さんは、ネオニコチノイド系農薬の問題に警鐘を鳴らし、科学的知見に立った報告書を発表してきた国際自然保護連合浸透性殺虫剤タスクフォース公衆衛生グループ座長で、ご自身が20年近くネオニコチノイド系農薬の被害と人の健康影響の研究を続けてこられている。この点でも、この作品には期待したい。そしてこの映像は、農業の現場でネオニコチノイド系農薬を使っている農民や農業労働者が、その危険性を知るために活用しうる作品となるだろう。この作品は完成後、ウェブに無料公開を予定しているという。
支援の目標額は100万円で、クラウドファンディングのプラットホームのモーション・ギャラリーから申し込む。締め切りは10月29日。現在、75%まで到達している。
・モーション・ギャラリーこれまでにも幼児の尿からもネオニコチノイド系農薬が見つかり、胎児にも移行していることが明らかになっている。現代のヒトは幼い時からネオニコチノイド系農薬に曝されていることは間違いない。そして、この10年ほどの間に、以下のようにネオニコチノイド系農薬のヒトへの健康影響が明らかになっている。
【2011年】
【2012年】
【2016年】
【2017年】
【2018年】
【2019年】
【2020年】
【2021年】
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