欧州食品安全機関(EFSA)と欧州化学機関(ECHA)は5月10日、今年12月に登録期限を迎えるグリホサートの更新審査の結論が23年7月になると発表した。この遅延によりグリホサートの登録は暫定的に延長され、来年後半に決着する模様だ。国際農薬行動ネットワーク・欧州は11日の声明で「EFSAは、人々の健康と環境に対して容認できないリスクがあることを示す意見を迅速に出すのに十分な証拠を得た」と指摘し「欧州委員会は、アグリビジネスから離れ、市民と独立した科学者の意見に耳を傾けるべき時が来ている」と、先送りを批判し早急に結論を出すよう求めた。
今回、欧州食品安全機関が発表した大幅な遅延は、昨年秋に公開で求めた関係者のコメントが400件を超え、またバイエルなどからなる更新申請を行ったグリホサート更新グループ(GRG)から約2400件の追加情報が集まったからだとしている。
集まった追加情報は、フランス、ハンガリー、オランダ、スウェーデンのEU加盟国4か国からなるグリホサート評価グループ(AGG)が行っている評価報告書案で検討される予定だとしている。
欧州化学機関のリスクアセスメント委員会(RAC)は、この5月末、グリホサートの危険有害性分類について検討する予定で、発がん性、遺伝毒性、生殖・発生毒性、環境分類について検討される。リスクアセスメント委員会の意見は7月下旬から8月ごろに欧州食品安全機関に提供され、ウェブサイトで公開されるとしている。
一方、フランスなどからなるグリホサート評価グループは、22年9月末までに、最終的な更新評価報告書を提出する予定であるという。これにより欧州食品安全機関は22年11月、12月に加盟国専門家との審査会議を開催し、23年7月に最終報告書を確定させることができるだろうとしてる。欧州食品安全機関は、この最終報告書で、グリホサートへの曝露がヒトや動物、環境にもたらす可能性のあるすべてのリスクを評価することになるとしている。
最終報告書が23年7月になるというこの大幅な遅延により、今年12月の登録期限は暫定的に延長されると思われる。
Euractivによれば、欧州委員会の保健衛生・食品安全担当委員であるステラ・キリアキデス氏は、「グリホサートの評価が遅れていることを深く憂慮している」と述べ、「できるだけ早く作業を完了するために最大限の努力をする」よう各機関に要請したという。
国際農薬行動ネットワーク(PAN)・欧州は5月11日、欧州食品安全機関の発表を受けて、「欧州食品安全機関は、人々の健康と環境に対して容認できないリスクがあることを示す意見を迅速に出すのに十分な証拠を得た」「欧州委員会がEUでのグリホサート使用を1年延長することに白紙委任することはありえない」「農薬の削減は、EU未来会議の結論でもある。欧州委員会は、アグリビジネスから離れ、市民と独立した科学者の意見に耳を傾けるべき時が来ている」との声明を発表した。
「グリホサートには遺伝毒性があり、発がん性物質である可能性が高く、環境に対して受け入れがたい悪影響を及ぼすことは独立した科学が明らかにしている」「グリホサートは2017年に禁止されるべきだった」と指摘している。
Euractivによれば、PAN欧州の政策担当者であるマーチン・デルミン氏は、欧州食品安全機関に対して「欧州委員会と加盟国が承認延長の考えを捨てるよう、年内に業界以外の知見に関する意見を出す」よう求めたという。
PAN欧州は声明の背景説明の中で、これまでに明らかになったグリホサートのヒトの健康や環境への影響について次のような研究結果を示した。
- 発がんリスク(Portier, 2020)
- ヒトの発育、生殖、ホルモン系に悪影響(HEAL, 2022)
- 許容できない神経毒性作用(Cattani 2014、Cattani, 2017)
- ミツバチなどの昆虫に許容できないリスク(Tan, 2021、Battisti 2021)
- 昆虫の腸内細菌叢を破壊し生存を損なう(Motta, 2020)
- 両生類に特に初期の発生段階でダメージ(Herek, 2020、Turhan, 2020)
- グリホサート処理地域のミミズを殺し減収をもたらす(Pochron, 2020、Owagboriaye, 2020)
- 深刻な土壌微生物叢へのダメージ(Kepler, 2020)
- 水生生態系にダメージ(Ferreira-Junior, 2017、Webster, 2015、Dumitru, 2019、Liu, 2022)
- 水生微生物にダメージ(Lu, 2020)
国際がん研究機関(IARC)は2015年、グリホサートについて「おそらく発がん性がある」とするグループ2Aに分類した。2017年、グリホサート禁止を求めるEUの市民発議には、EU市民100万人以上が署名した。欧州委員会はグリホサートの禁止には踏み込まなかったが、農薬規制に関し情報公開を拡大した。
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