先の参議院選挙で参政党という新しい政党が一議席を獲得しました。参政党は、有機農業や種子の国内自給、有機給食推進などの一方で、天皇中心主義、外国人参政権反対、憲法9条改正など国家主義・排外主義を主張しています。こうした農や食への主張が有機農業や有機食品、添加物問題などの関心ある層を引き付けたといわれています。こうした参政党の主張に対して、農民と消費者(生活者)の立場から「私たちは農と食が国家主義・排外主義の枠内で語られることを拒否します」と題した声明が、32名の農民や市民の呼びかけで発表されました。
声明は、参政党が「化学的な物資に依存しない食と医療の実現と、それを支える循環型の環境の追求」を掲げたことが、「有機農業や食の安全に関心をもつ人たちの中に小さなブームを巻き起こし、票を集めた」と指摘しています。さらに、「有機農業運動はこれまで一貫して国際交流を大事にし、海外の実践に学び、日本の経験を分かち合いながらその思想や技術を発展させてきました」「国家主義・排外主義は私たちのこうした思いや実践と相いれません」と、これまでの有機農業運動が排外主義の対極にあるとしています。そして、《私たちは、農民、消費者生活者が取り組む農業生産活動、有機農業や食の安全をめざす運動が、国家主義・排外主義の枠内で語られることを拒否します》と、参政党の主張に反対し、与しない姿勢を明確にしています。
こうした参政党の主張に対して、一部では「有機農業はナチス・ドイツと親和性が高い」という主張が出てきています。『ナチス・ドイツの有機農業』を著した藤原辰史さん(京都大学人文科学研究所准教授)は、「有機農業で健康になるべきはドイツ人だけ、アーリア人種だけというナチスの考え方です。アーリア人種だけが有機農業を通して健康であるべきだ。その反対に据えられているのは精神障害者、身体障碍者、ユダヤ人、スラブ人、ポーランド人です。そういう人たちは飢えて食べられなくてもしょうがない人種というカテゴリーに当てはめられてしまう」(『土と健康』2022年1・2月号)、とその人種差別性を指摘しています。参政党の主張がナチス・ドイツと親和性が高いからといって、有機農業がナチス・ドイツと親和性が高いというのは妥当ではありません。
《食への権利》について、声明は次のように述べています。世界人権宣言や国際人権規約に明示されている権利であり、「人は誰でも、いつでも、どこに住んでいても、心も体も健康で生きていくために必要な食料を作り、手に入れることができる、すべての人が生まれながらにもっている権利として位置づけられています」。
この声明は、賛同者を募っていて、14日現在、11団体、109名の賛同が集まっています。ぜひ、賛同を。賛同される方は事務局の大野和興さんまで連絡してください。
メール rural@kind.ocn.ne.jp
電話 050−3569−8757
FAX 0494−25−4781
【声明】私たちは農と食が国家主義・排外主義の枠内で語られることを拒否します
私たちは農民です。農民として、自分の身の丈に合わせ、自然と相談しながら営農を持続し、ある者は有機農業に挑戦し、地域の農業を維持してきました。自由に、思いや行動や知恵や技術を発揮できることに誇りをもって食を作ってきました。
私たちは消費者であり生活者です。私たちは食べる者として、自身と将来世代の誰もが健康で幸せに生きることができるように、安心して食べ続けられるように、消費者生活者としての運動をつみあげてきました。
それこそが農と食の民主主義だと私たちは考えます。
7月の参院選は食と農をめぐって、排外主義的な農業でも良しとするのかという問いを私たちに突き付けました。
はじめて選挙に登場した参政党が、大量の候補者を立て、当選者を出し政党要件を獲得するという出来事がありました。同党は三つの主要公約の一つに「化学的な物資に依存しない食と医療の実現と、それを支える循環型の環境の追求」を掲げ、有機農業や食の安全に関心をもつ人たちの中に小さなブームを巻き起こし票を集めたのです。
同党は綱領の第一に「天皇を中心に一つにまとまる平和な国をつくる」を唱え、主要公約に一つに、「日本の舵取りに外国勢力が関与できない体制づくり」「外国人労働者の増加を抑制し、外国人参政権を認めない」を掲げています。国家主義・排外主義の色彩が極めて濃い政党です。
有機農業運動はこれまで一貫して国際交流を大事にし、海外の実践に学び、日本の経験を分かち合いながらその思想や技術を発展させてきました。食の安全を求めて運動している消費者生活者は、世界中誰もが安心して食べられる世界をめざしています。国家主義・排外主義は私たちのこうした思いや実践と相いれません。
いま日本では、国民の危機意識を煽りながら軍備の大膨張に動き出しています。そのために邪魔になる憲法の改定が具体的な政治日程に上がっています。あらゆる分野で「安保優先」の動きが強まり、国家による監視と統制、排外主義が持ち込まれようとしています。農と食という生命の再生産をつかさどるもっとも人間的で自由でなければならない分野も、例外ではあり得ないと私たちは懸念します。
『私たちは、農民、消費者生活者が取り組む農業生産活動、有機農業や食の安全をめざす運動が、国家主義・排外主義の枠内で語られることを拒否します。』そのことをいいたくて、この声明を発します。
世界人権宣言や国際人権規約に明示されている「食料への権利」は、人は誰でも、いつでも、どこに住んでいても、心も体も健康で生きていくために必要な食料を作り、手に入れることができる、すべての人が生まれながらにもっている権利として位置づけられています。私たちは、この声明の出発点を「食料への権利」に置きたいと考えます。
この声明に賛同いただける個人・団体を募ります。ぜひご一緒に
2022年8月11日
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